消費者意識


保証はしないのですかと言う背景

ある患者さんがいます。強烈な歯ぎしり大王です。咬合力も強く、この世のナンでもかみ砕いてしまいそうな筋力もあります。しかしその為に、御自分の歯はその力に耐えられずにあちこち破折して、修復してもすぐに壊れるのを繰り返していました。当院でリコンストラクションを試み、健全な歯ぎしりを誘導してきちんと食いしばりが出来るようにしました。その状態を少しでも長く維持し、歯へのダメージを減らす為に、ナイトガード を作製し就寝時の装着をお願いしました。

しかしです。歯ぎしり大王なんですよ(笑)。2~3ヶ月でナイトガードには穴が開き新しいものが必要になってしまうのです。患者さんにしてみれば修理をしても半年に一回の新規の作製は腑に落ちない訳ですね。。。そこで患者さんは穏やかに言いました(笑)。これって保証期間はないのですか?

あ~、なるほど。
歯科医療の中に補綴管理料と言う愚策が導入されて暫くたちます。医療に保証をつけると言う事がどう言うことなのか理解出来なかった当時の役人と、一部の歯科医師(良く知ってる人だけど(笑))で相談され実現しました。医療行為に、ある意味製品保証をつけた時点で、患者さんは消費者になってしまい、上記のような事に当然なる訳ですね。
医療は消費と言う感覚からすれば、生まれて当然と思ってた子供がそうならない時当然それは医師の所為なのだろうし、病気が改善しないのは治せない医師の所為なのだろうし、子供が病気になったのは早期発見できなかった医師の所為。入れ歯があわないのはうまく作れない歯科医師の所為だし、歯周病が治らないのも歯科医師の所為。

新品のタイヤを買いました。毎日600キロも走るヘビーユーザーです。一年またずにスリップラインが現れて交換ですが、保証してと言うのでしょうか?とりもなおさずここには消費者意識が入りますが、自分とてヘビーなユーザーであると言う意識の共有があるじゃないですか。
医療現場では最近、この共有(歯が無くなったのは自分の責任でもある、とか、歯周病が進行したのは自分の責任でもある、等)部分を全く無視する傾向が強くなっている気がしてなりません。この共有部分を理解しているならワシらもどれだけこの人の為に頑張ろうと思うのか。。しかし、病気自体をワシらに放り投げ、なおかつ全てワシらの所為にするのなら、医師としてこんなつらい事はないですよ。

歯ぎしり大王の言い分も分からなくはないのですが、消費ではありません。しかも、一つのナイトガードを作るのにただ漫然と作る訳ではないので、様々な複雑な作業工程があります。で、7000円ほどの一部負担金は高いと?歯ぎしり大王は言いました。市販のスポーツ用のマウスピースではダメなんですか?圧倒的にそっちのが安いので。。。。ええ、構わないですよ、快適性を度外視すればね。目的はガードですから。歯科専用は様々なリスクマネージメントに費用がかかります。起こり得るリスクを覚悟するのなら構わないでしょう。
最後に申し添えておきますが、歯ぎしり大王は、歯ぎしりによる自身のストレスマネージメントに優れているので、攻撃性がなく社会的で温和で協調性があると言う事を覚えておいていただきたいと思います。

Posted: 土 - 11月 15, 2008 at 10:47 午前        




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